好録音探求

 『演奏者の存在を身近に感じられる録音』を求めて・・・
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バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲
ナタン・ミルシテイン Nathan Milstein (Violin)
Studio A, 46th Street Studio, NY. 26 & 31 March 1954(Sonata No.1), 6 February 1956(Partita No.1), 27 December 1956(Sonata No.2), 23-24 March 1954(Partita No.2), 5, 16, 17 March 1956(Sonata No.3), 28 December 1955(Partita No.3)
ZDMB 64793 2 3 (P)1955-66 Angel Records (輸入盤)
 愛聴盤  好録音度:★★★★★
参考: HMV OnlineiconAmazon.co.jpTower Records

CD試聴記」からの転載記事です。3回目のレビューです。

恐ろしいほどにキレがよく,その潔さが痛快! 円熟や味わい深いといった言葉の対極にある,ものすごく尖った演奏です。当時の巨匠の強烈な個性に圧倒されます。現代ではもうこんなスタイルで演奏する人が出てくることはないんじゃないだろうか...

リピートの省略が多いのが残念ですが,これも時代を思えばいたしかたなしというところでしょうか。

録音はモノラルです。わずかに残響が感じられますが,ほとんど影響がないと言ってもいいくらいです。少し距離感があってわずかに明瞭度,鮮明さを落としているのが残念ですが,それでも音の捉え方としては良好で,演奏をストレートに生々しく伝えてくれる好録音です。この点を評価して五つ星にしました。

ただオーディオ的なクオリティは決して良いとは言えません。高域がキンキンし,低域が抜けた感じでバランスも良くありませんし,いかにも古い音色です。マスターテープの問題か,時折曇った感じに聞こえるところもあります。古い録音なので仕方ないと思います。

このディスクは1回目の全曲録音で,どちらかといえばDGに録音した2回目の全集の方が一般的には評価が高いように思います。でもこの1回目も捨てがたい魅力を放っています。(私の好きな)ミルシテインの魅力がこの全集に凝縮されています。

以上が「CD試聴記」からの転載です。ここではもう少しだけ録音について追記します。

上述の通り,この録音はスタジオで残響がほとんどない環境で録音されています。音質が「古い」という以外に鑑賞を阻害する要素がほとんどありません。今でも十分に鑑賞に堪えるのは,この残響の少ない録音によるところが大きいと思います。

以前の記事(例えばペレーニの無伴奏チェロ組曲)からも繰り返し言ってきたことですが,残響がなくても素晴らしい音楽は成立します。音楽の本質は残響の有無に左右されません。このディスクはそれを見事に証明しています。「これに残響が加わっていればもっと素晴らしいものになったのに!」と思われる方もおられるかもしれませんが,私はそうは思いません。

ミルシテインの1973年の録音は残響がかなり入っています。この1973年盤とこの1954-56年盤を聴き比べてみると,1973年盤はものすごく多くの大切な音楽的情報が残響と引き換えに失われていることが感じられます(それでも名盤としての確固たる地位を築いているというのは本当に演奏が素晴らしいということの証ですね)。CDという限られた情報量しか収められない器がそれ自体ほとんど情報量のない残響で埋め尽くされるのですから,相対的に重要な音楽的情報が減ってしまうのは当然です。情報量が減った方がよいということは基本的にはありません。

特に録音に関わられている方には,残響について,取り入れるにしてもその功罪をきちんと見極めて取り入れて欲しいということを改めてお願いしたいと思います。

残響が入っていても音楽的情報の損失が最小限の録音も存在します。こういう録音は,メディアという器に収められた音楽情報の隙間にうまく残響の情報を入れて,音楽情報が押し出されないようにしているのだと思います。せめてこれくらいは配慮して欲しいものです。

長々と失礼しました...
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